2025.07.09
メタボリズムな建築様式が特徴の中銀カプセルタワービル

社員ブログもおかげさまで2回目になりました。
今回も前回と引き続き、筆者の好きなモノシリーズについて語っていければと思います。
第2弾は「建築物」です。
ヴィンテージマンションや高度経済成長期に建設された団地を見学するのが好きな筆者のお気に入り、中銀カプセルタワービルについて語りたいと思います。
どうぞ一時、お付き合いください。
中銀カプセルタワービルの概要
中銀カプセルタワービルは建築家、黒川紀章によって1972年に建てられました。2棟構造、140戸を誇る巨大マンションです。部屋はそれぞれ独立した1ルームの狭小カプセルで、幅約2.5m、高さ約2.5m、奥行き約4mから成っています。
住所はハイソな大人の遊び場、銀座の首都高を縫うようにして佇んでいました。

しかし2022年に解体、現在その姿を目にする事はできません。
中銀カプセルタワービルの詳細情報
名称 中銀カプセルタワービル(なかぎんかぷせるたわーびる)
設計 黒川紀章
施工会社 大成建設
構造形式 SRC造一部S造
階数 A棟地上13階、B棟地上11階地下1階
所在地 東京都中央区銀座8丁目16−10
中銀カプセルタワービル3つの魅力
筆者が中銀カプセルタワービルに魅力を感じた理由を3つご紹介します。一見古臭くて狭いだけのマンションと思われるかもしれませんが、惹かれるモノがそこにはあります。
魅力⓵レトロフューチャーな内装
オープンリールデッキや電話、レシーバーが部屋の壁に備え付けられており、当時の最先端を走っていました。
また、丸ドアの3点ユニットバスは小ぶりながら、デザイン性と機能性に優れています。

いまでこそ忌み嫌われている3点ユニットバスですが、当時はホテルライクな暮らしの象徴として羨望の眼差しを向けられていました。

このような当時の最先端は、いつしか令和の現在では古めかしいながらも「昭和が夢見た未来」、つまるところレトロフューチャーの趣を感じざるを得ません。
魅力②移りゆく入居者層
銀座の一等地に佇んでいた中銀カプセルタワービル。
当時お住まいだった方々のブログを拝見すると「寝ぼけまなこのままモーニングへ」、「気軽にフラッと銀ブラ」、「終電を気にせずラウンジでお酒を嗜む」など、アーバンライフに興じていたようです。
元々、中銀カプセルタワービルは郊外に自宅があるファミリー世帯の大黒柱が、平日だけ滞在する事を目的としたセカンドハウスだったため、利便性がとても重視された背景があります。

かつての企業戦士の前線基地が現在では都心の文化・娯楽享受の拠点へと変貌を遂げました。
この現象は昭和から平成、そして令和にかけて価値観が変容してきた事の証左のように感じます。
本来普遍的である不動産という要素に半比例して入居者層は変わっていく、そんな「静」と「動」の歪さに心惹かれました。
魅力③隠れ家のようなカプセル
部屋は宇宙船のモジュールのようなカプセル構造になっており、取り外しが可能です。つまり時代に合わせて形を変えていける生き物のような建築物として世に生み出されました。
無機質な建築物が生物のように振舞える仕組みは、現代でも先進性を感じます。

「カプセルとはホモ・モーベンスのためのすまいである。」 黒川紀章
メタボリズム思想について
建築物をモジュール化して交換する思想をメタボリズムと呼びます。意味は「新陳代謝」、1960年代の人口ボーナス期を迎えた日本社会に対応するため生まれた建築思想です。
一度も実施されなかったカプセル交換
カプセルはメタボリズム思想に基づけば、本来交換されるはずでした。しかし中銀カプセルタワービルは竣工から1度も交換される事はなく2022年、50年に及ぶ歴史に幕を閉じました。

カプセル交換ができなかった代表的な2つの理由
カプセル交換ができなかった理由はいくつかありますが、代表的な2つをご紹介します。

理由⓵構造と所有権
1つのカプセルを外すためには他のカプセルも外す必要があり、必然的に一斉交換以外の道はありませんでした。
しかし分譲マンションである中銀カプセルタワービルは、各カプセルのオーナーから許可をとりつける必要があり、現実的な観点から交換ができませんでした。
中にはオーナーの高齢化などもあり、連絡そのものがつかないケースもあったそうです。
理由②アスベスト(石綿)
建設当時は夢の素材と呼ばれていたアスベスト(石綿)が使用されており、粉塵対策が足を引っ張りました。
現代ではアスベスト(石綿)の処理には多額の費用が発生するため、カプセル交換はより困難になりました。
カプセルの現在
現在も一部のカプセルは現存しています。筆者も解体後に一般公開されたSHUTLにカプセル展示を見学しに行きました。

・所在地
東京都中央区築地4丁目1−8
中銀カプセルタワービルのまとめ
もし中銀カプセルタワービルへの居住が叶っていれば、カプセル丸窓の眼下を駆け抜けていく首都高の灯を肴に晩酌がしたかったものです。実に残念。

筆者の矮小な愚痴はここまでにして、それでは次回もまたお会いしましょう。
※筆者の主観に基づく記事であり、内容について一切の責任を負いかねます。